ギャラクシーエンジェルの紋章機を始めとする宇宙船の動力として使われているクロノ・ストリング・エンジンについて考察していきます。4章の「クロノ・ストリングとはどんな物質なのか」については、黒マントによる独自の理論であり、公式設定ではないことにご注意ください。
始めに、GALAXY ANGEL II〜永劫回帰の刻〜のデラックスパックの特典で付いて来るEncyclopedia Galaxy Angelの関連する項目を拾ってみましょう。
- クロノ・ストリング
EDEN宇宙が持っている、もっとも強力なエネルギー源。宇宙創造時のエネルギーのかけらとも言われている。出力は非常に不安定。
- クロノ・ストリング・エンジン
無限ともいえるエネルギーを発するが、出力が安定しない「クロノ・ストリング」から、なんとか一定の出力を得ようと考案されたシステム。エネルギーの発生源である「ストリング・シリンダー」を多数並べる事で、見かけ上出力コントロールを可能としている。ミルフィーユの乗る「ラッキースター」には、クロノ・ストリング・シリンダーが1つしか装備されていないが、彼女は「運が良い」ので、それでも安定した運用が可能となっている。
- クロノ・ストリング・シリンダー
クロノ・ストリングを一つ閉じ込めてある筒。エネルギーの抽出量をコントロールする事はほぼ不可能で、非常に不安定。但し、完全解放することは比較的容易。その際に発生するエネルギー量は甚大で、細心の注意が必要。大小様々な大きさ、規格がある。
Encyclopedia Galaxy Angelから引用
私は、これらの記述、また実際にゲームをプレイしたり小説を読んだりして、クロノ・ストリング・エンジンの原理を原子物理学、特殊相対性理論を用いて解釈しています。考察に入る前に、この記事を読むのに必要な原子物理学、特殊相対性理論の知識を大雑把に解説します。既にこれらの知識がある方は読み飛ばして頂いてかまいません。
高校化学の最初の方で、原子の構造について学習します。なので、忘れていたとしても見たこと、聞いたことはある方が多いと思います。
まず、原子を構成する粒子には陽子、中性子、電子があります。通常の原子は、陽子と中性子からなる原子核の周りを電子が回っている構造です。太陽系のような図を想像して貰うと、原子核が太陽、その周りを回っている電子は惑星に当たります。(現実にそのような形で回っているわけではないのですが、原子の構造を簡単に理解するためのイメージとしてください)
陽子はプラスの電荷を、電子はマイナスの電荷を、中性子は電荷を帯びていません。
陽子の電荷の強さと電子の電荷の強さは同じで、プラスとマイナスで磁石のNとSのように引き合う性質があります。同様にプラス同士、マイナス同士では磁石のN同士、S同士のように反発しあう性質があります。
陽子と中性子、電子には質量があります。陽子は約1.6726×10-27kg、中性子は約1.6749×10-27kg、電子は約9.1094×10-31kgです。陽子と中性子はほぼ同じ質量ですが中性子の方が若干重いです。電子の質量はそれらの約1/1840です。
一般的に、地球上の大部分の水素原子は原子核が陽子1つのみで、その周りを1つの電子が回っています。
それ以外の原子核では陽子と中性子から構成されていて(例外はありますが極めて特殊な例なのでここでは無視します)、その周りを陽子と同じ数の電子が回っています。
陽子の数が同じで、中性子の数が異なる原子があります。先に大部分の水素原子は原子核が陽子1つのみと書きましたが、地球上に存在する水素原子のうち0.015%は陽子1つと中性子1つから構成されています。こうしたものを、水素の同位体と言います。水素の同位体には、更に陽子1つ、中性子2つの三重水素と呼ばれるものもあります。トリチウムと言えば、放射能汚染などのニュースで聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。
図1. 水素とヘリウムの原子構造と同位体
原子の種類は陽子数で決まります。原子には種類ごとに原子番号が振られており、陽子の数がそのまま原子番号になります。
陽子と中性子ではわずかに中性子の方が重いのですが、ほぼ同じです。また、電子の質量は陽子と中性子に比べると無視できるほど小さいです。よって、陽子と中性子の数の合計を擬似的にその原子の質量とし、数値化したものが質量数です。
よって、質量数から原子番号(陽子数)を引くとその原子の中性子数が求まります。
分野によって、質量数の違いを明確に区別する必要がある場合、元素名の後に質量数を付加して表記します。ウラン235、酸素18といった具合です。元素記号で書くときはそれぞれ235U、18Oと表記します。このページでは日本語名の後に数字を付ける書き方で統一します。
また、水素の同位体には固有の名前があり、水素1を軽水素、水素2を重水素またはデューテリウム、水素3を三重水素またはトリチウムと呼ぶことが多いです。
例外として、水素だけは古くからの慣習として重水素をD、三重水素をTと表記したりすることもあります。
陽子の数が同じで中性子の数が違う原子を同位体と言いました。同位体には安定同位体と放射性同位体があります。安定同位体はそのまま放置しても変化しない同位体で、放射性同位体は時間の経過とともに放射線を出しながら別の原子に変化する同位体です。化学反応においては原子は変化しないと習ったと思います。確かに化学反応では変化しないのですが、こうした放射線が絡む話では「原子核反応」として原子が別の種類の原子に変化することがあります。
さて、前に書きましたが、水素には主に原子核に中性子が無い軽水素、原子核に中性子が1つある重水素、原子核に中性子が2つある三重水素があります。このうち、軽水素と重水素は安定ですが、三重水素は不安定で、放射線を出しながら別の原子核に変化します。この「ある原子核が放射線を出しながら別の原子核に変化することを放射性崩壊」と言います。
放射性崩壊には、アルファ崩壊、ベータ崩壊、ガンマ崩壊の三種類があります。ここではアルファ崩壊とベータ崩壊について説明し、ガンマ崩壊は省略します。
陽子数が2で中性子数も2のヘリウム4があります。ある原子核がこのヘリウム4の原子核を放出し、陽子数と中性子数が2ずつ減る崩壊をアルファ崩壊と言います。
この放出されたヘリウム4の原子核のことをアルファ線と言います。放射線の一種です。
例えば、陽子数92で、中性子数が146のウラン238はアルファ崩壊して陽子数が90で中性子数が144のトリウム234になります。その際にアルファ線を放出します。
図2. アルファ崩壊の模式図
ベータ崩壊は何種類かあるのですが、ここでは代表的なベータ崩壊一つを紹介します。
原子核を構成している中性子の一つが電子とニュートリノという粒子を放出して陽子に変わる崩壊をベータ崩壊と言います。このとき放出された電子をベータ線と言います。放射線の一種です。
例えば、陽子数が1で中性子数が2の三重水素はベータ崩壊してヘリウム3になります。
図3. 三重水素のベータ崩壊の模式図
さて、アルファ崩壊とベータ崩壊について説明しましたが、これらの崩壊は確率的に起こります。例えば、ウラン238はアルファ崩壊してトリウム234になると話しましたが、と言うことは放って置くとウラン238はどんどん崩壊して少なくなっていくように見えますね。では、これが元の半分になるにはどのくらいの時間がかかるのでしょうか。それを示す時間が半減期です。
ちなみに、ウラン238の半減期は約44億6800万年です。地球の年齢と近いですね。半分になるまでにこんなとてつもない時間がかかると言うことは、ウラン238がアルファ崩壊を起こす確率はかなり低いと言うことです。
ウラン238がアルファ崩壊するとトリウム234になると話しましたが、トリウム234はベータ崩壊してプロトアクチニウム234になります。このトリウム234の半減期は約24日です。ウラン238とは比べ物にならないくらい短いですね。ということは、トリウム234がベータ崩壊する確率は高いと言えます。このように半減期は崩壊する原子核によってまちまちであり、宇宙の年齢ですら比べ物にならないくらい長いものや、何億年もかかるものからミリ秒にも満たないものまであります。これらは原子核の種類によって決まっています。
放射性崩壊について話しましたが、次に核分裂について話したいと思います。
核分裂を起こしやすい原子核に中性子をぶつけると、核分裂が起こります。
例としてウラン235に中性子をぶつけるとイットリウム95とヨウ素139と2つの中性子に分裂したり、クリプトン92とバリウム141と3つの中性子に分裂したりします。どういう風に分裂するかも確率的に起こります。
図4. ウラン235の核分裂の一例
核分裂とは原子爆弾や原子力発電所でエネルギーが発生する原理そのものであり、聞いたことがある人も多いと思います。では、なぜ核分裂によってあれほど莫大なエネルギーが発生するのでしょうか。
先ほど、ウラン235が1つの中性子とぶつかって核分裂する例として、クリプトン92とバリウム141と3つの中性子に分裂すると書きました。ここで、分裂前と分裂後の陽子、中性子の数を比べてみましょう。
分裂前では、ウランの原子番号は92なので陽子の数は92、質量数は235なので235-92で143、更にぶつけた中性子も合わせると144になります。陽子が92個、中性子が144個ですね。
分裂後ではクリプトンの原子番号が36なので陽子は36、中性子は92-36で56、バリウムの原子番号は56なので陽子は56、中性子は141-56で85、更に3つの中性子が飛び出します。陽子数は36+56で92、中性子数は56+85+3で144、当然と言えば当然ですが、分裂前と分裂後で陽子と中性子の数は変わりません。
しかし日常的な感覚では考えにくいことですが、分裂前のウラン235と中性子1つの質量の合計と、分裂後のクリプトン92とバリウム141と中性子3つの質量の合計では、分裂後の方が軽くなるのです!!
図5. 核分裂前後の質量差
では、消えた質量はどこへ行ったのでしょうか。それは、核分裂時のエネルギーとなって放出されたのです!
「え、質量がエネルギーに!?」と思うと思います。ここで出てくるのがアインシュタインの特殊相対性理論の帰結である「質量とエネルギーは等価である」という理論なのです。
E=mc2という有名な公式があります。
Eはエネルギー(J)、mは質量(kg)、cは光速で299792458(m/s)という定数です。
m(kg)の質量が消えるとき、発生するエネルギー(J)はその質量に2997924582をかけたものと等しいと言っているのです。
分かりやすい例で言うと、広島に落とされた原子爆弾で消えた質量はおよそ0.7gと言われています。たった0.7gの質量が消えただけであれほどまでに凄まじいエネルギーが発生するのです。
核分裂では分裂前と分裂後で質量の差が生じるので、その差がエネルギーとなり少ない燃料で大きなエネルギーが発生するわけです。
さて、長々とギャラクシーエンジェルとは関係ない原子物理学と特殊相対性理論の話を大雑把にしてしまいましたが、これらの理論を使ってクロノ・ストリングという物質を理解してみましょう。
現実には放射性同位体と言って、確率的に放射線を出しながら別の原子に変化する原子が存在します。クロノ・ストリングは確率的にエネルギーを放出すると言うことから、確率的にエネルギーを放出しながら質量を減らす物質と解釈します。
無限とも言えるエネルギー量といっても、実際には無限ではないのです。ただ、質量はほんの少しでも減るととてつもないエネルギーが出るので、クロノ・ストリング1つ分全ての質量分のエネルギー量は天文学的数字になり、無限といいたくなるような値なのでしょう。
現実の半減期がそれなりに長い放射性同位体は、原子一つ一つで見れば崩壊する確率はかなり低いですが、目に見える程度の塊になっている時点で何百億、何兆という原子が集まっているので、巨視的に見れば連続的に少しずつ崩壊しているとみなして問題ないレベルです。
図6. クロノ・ストリングのエネルギー放出のイメージ図
クロノ・ストリングが確率的に質量を減らしてエネルギーに変換するのは、離散的な時間で瞬間的に大きなエネルギーが出ると考えられます。なので、通常の艦では多数集めることによって全体で見れば連続的にエネルギーが出ているとみなせるようにしているのです。
図7. 複数のクロノ・ストリング・シリンダを組み合わせて出力を合成する
現実にある放射性の原子が崩壊する確率をコントロールする事は、今の科学技術では出来ていません。クロノ・ストリングもこれと同じような感じで通常の技術では質量がエネルギーに変わる確率に干渉する事は出来ませんが、H.A.L.O.はこれが可能という公式設定が存在します。
クロノ・ストリングを解放すると爆発的なエネルギーが発生するのは、一瞬の内にその質量の全てをE=mc2に基づきエネルギーに変換したと解釈すると、あの凄まじいエネルギーを説明できそうです。
現実にある放射性物質には臨界量という量があり、ある一定量以上の塊になると核爆発を起こします。核分裂をコントロールするのは困難で、実際にコントロールしている原子炉では非常に高度な技術が使われていますが、ただ臨界に達せさせるだけなら比較的簡単です。クロノ・ストリングも永劫回帰の刻の描写を見てると「ある一定量以上の塊にする」というわけではなさそうですが、そのような比較的簡単なトリガによって、その質量の全てをエネルギーに爆散させることが可能だと考えます。
残念ながら、どんなトリガなのかは推定出来る情報が無く、不明です。
「ゲーム上の演出」と片付けてしまいたいところですが、そうではないと解釈すると…
空中給油機のごとく、クロノ・ストリングをエルシオールから紋章機に送っているといったところでしょうか。レールガンのようなものを使ってクロノ・ストリングを射出し、紋章機がそれを受け取っており、黄色い光はその軌跡、といったところでしょうか。ゲーム中に距離5000といった表現がありますが、距離1000は戦闘画面のマップビューの一マスに当たります。補給の射程は500であり、一マス1000kmとすると500km、単位的にも大体いいのではないでしょうか。
エルシオールのENが減り紋章機のENが回復する理由はこれで説明できますが、紋章機のHPも回復する理由は理論的に説明するのは難しそうです。
クロノ・ストリング・エンジンの原理とはあまり関係ありませんが、ついでに…
ネガティブ・クロノ・ウェーブはエネルギーをクロノ・スペースへ逃がしてしまう波で、それが有効な範囲がネガティブ・クロノ・フィールドです。ゲームでの描写から、熱のようなエネルギーが対象で、紋章機や黒き月の姿が見えたり、通信は出来たことから光や電波のような電磁波には効かない事が伺えます。
エネルギーをクロノ・スペースへ逃がしてしまうと言ってもその速さは無限ではなく、クロノ・スペースへ逃げてしまうエネルギーの速さよりも速くエネルギーを放出することが出来れば、燃費は著しく悪くなりますがネガティブ・クロノ・スペース下でも動けると考えられます。エンジェルフェザーを出したことでこの速さでエネルギーを出すことが出来るようになったのでしょう。
黒い艦隊がこのフィールド中で動けたのは、この時黒き月が出したのはそれほど高出力なネガティブ・クロノ・ウェーブではなく、黒い艦隊の艦でもMoonlit LoversのGA-007のように逆位相の波を出してキャンセルしつつ動けるように対策が施されていたのではないでしょうか。
※…尤も、Encyclopedia Galaxy Angelのエンジェルフェザーの項目に、「最大の能力が発現した場合、クロノ・クエイク爆弾をも超越する力を発揮することもできる」と書かれているので、一言「エンジェルフェザーが出たらなんでもありです」って片付けちゃえば終わってしまうのですが…。
管理人への質問・連絡等は下記のアドレスへ